映画鑑賞記「アメリカン・アニマルズ」

公開日 2019年05月27日

アメリカン・アニマルズ

監督:バート・レイトン
原題:American Animals
製作年:2018年
製作国:アメリカ
上映時間:116分

映画の冒頭で、「この作品は実話を基にしているのではない、実話だ」と示される通り、本作は2004年に実際にあった事件の映画化だ。俳優が演じる部分が大部分ではあるけれど、ところどころに本人たちのインタビューが入り、彼らの記憶の違いが再現部分に重なって映されたりと、あまり見たことのないドキュメンタリーというか、再現ドラマというか、その双方を上手に組み合わせた興味深い作品に仕上がっている。

スペンサーは、大学に入学してからの毎日に苛立ちを感じている。新しい何かが見つかり、始まるという期待が裏切られたような気持ちだ。おなじく、スポーツ推薦で別の大学に入学した高校の同級生ウォーレンも、学生生活に満ち足りない日々を送っていた。彼らは、何か特別なことを起せば何かが変わるに違いないと思い、大学の図書館に所蔵されている時価1200万ドルの貴重な本を盗み出すという計画を立てた。

本作をクライムムービーとしてみると、その計画の杜撰さや犯罪を計画するに至る動機の子どもっぽさに首をかしげるばかりで、実話でなければ見る気にもならないストーリーだ。だが、観すすめるうちに、あまりにも子どもじみている彼らの行動に共にハラハラし、このうまくいくわけのない犯罪をなんだか励ましたくなってくる。それは彼らの苛立ちに見覚えがあるからだ。これはビターで、大人向きの青春ムービーなのだ。

彼らはみな、とても裕福というわけではないし、家庭に問題がないわけではないけれど、恵まれているといえるごく普通の中流の家庭に育ち、推薦で大学に入学することができ、順調に人生を歩んでいるように見える。ドロップアウトしているわけでもなく、むしろ優秀なほうのようだ。でも、だからこそ、唯々諾々してと今の状況と自分を受け入れることができず、かといって自分の力だけで殻を破ることもできなくて、誰かが(何かが)変化をもたらしてくれることを願っている。そう、彼らはどこにでもいるティーンエイジャーで、その心情は多くの人が「あのときの自分だ」と思えるのではないか。

「何か」から抜け出そうともがいていたあの時、あとから振り返ってみれば、そんな自分を労わりたくなったり、苦笑いしてみたりしたくなるようなあの時間を、きっと誰もが思い出すはずだ。

若さとは、ほんのひと時の、無謀を赦してくれる時間、それについての言い訳が通じる時間だ。けれども、そのような、いわば「若気の至り」というものが許容されるのには限度もある。
過ぎてしまえばよくわかることだけれど。

折々挟まれるインタビューには、本人だけではなく、高校時代の先生(たぶん)や、それぞれの両親も出てくる。彼らの言葉は映画が進むにつれて重みが増し、また、本人たちが事件を思い出しながら語る言葉の響きのトーンが徐々に変わっていくところに、引き込まれてしまう。ドラマだけ、ドキュメンタリーだけとはまた違う面白さを感じた。

自分探し。与えられ、恵まれている自分から本当の自分を見つけたいと切望する実話ベースの映画といえば、「イントゥ・ザ・ワイルド」が思い出される。
もちろん”Happiness only real when shared”というセリフが印象に残る「イントゥ・ザ・ワイルド」は美しい映画で、そして「若気の至り」で片づけるにはつらすぎけれど。

2019年5月19日鑑賞 by K.T