公開日 2014年11月20日
現在、三鷹駅南口駅前のショッピングセンターCORALの銀座コージーコーナーが在る辺りに、1990年の12月まで三鷹オスカーは在りました。元々は普通の店舗だったそうで、映画館を始めるに際して2階の床と1階の天井をぶち抜いて映画を上映出来る様に改装したとのことです。
その為か、客席数200程度の当時としては小さな映画館だったのに、他の映画館に比べて天井が高く、スクリーンも大きめでした。1951年から営業を開始し、大映、東映等の封切館を経て、1977年に3本立てで一般入場料600円の名画座として再スタート。1980年には番組を洋画中心に絞り、劇場名も三鷹東映から三鷹オスカーと改めました。私が三鷹オスカーの番組編成を担当し始めたのは、丁度その頃でした。自分で番組を組む様になって最初に分かったことは、映画館ではどんな映画でも自由に上映出来る訳では無いということでした。
まず洋画の場合は、その映画が製作された本国の配給会社と日本における配給会社との契約期間内でしか上映出来ません。作品によって期間は違いますし、人気のある作品は期間延長されたり、再契約されたりしますが、あまり儲けられないと思われると契約期間終了後は観られなくなってしまいます。
三鷹オスカーでは、「この間テレビで放送していたのに、何故上映出来ないのか?」とか、「ビデオが発売されているのに、何故上映出来ないのか?」と、度々お客様に聞かれました。しかし、劇場での上映権とテレビ放映権、ビデオ化権は別々なのです。
例えば「第5回三鷹コミュニティシネマ映画祭」で上映の『天井桟敷の人々』は35mmフィルムでの日本最終上映ですが、これは今まで日本国内での配給を手がけてきた会社と製作国であるフランスの会社との契約が2014年12月31日で切れてしまうわけです。2015年からは日本の別の会社が権利を得たそうですが、その会社は劇場での上映権は契約しなかったとのことです。その場合、現在使用中のフィルムは破棄しなければなりません。
それでは、2015年から国内配給する会社の契約期間が終了して別の会社が上映権を取得すれば再び観られる様になると思われますが、ここで別の問題が発生しました。何と、フランスでも映画のデジタル化が進み、これからは35mmフィルム版を作らないと言っているのです。何年か後に『天井桟敷の人々』が劇場で観られる様になっても、もうフィルムでは観られないし、デジタル上映設備の無い映画館では上映さえ出来ません。
しかし、デジタルでも観られるのなら良いではないかと思われる方もいると思いますが、フィルムとデジタルの映像は全く違います。デジタルではハッキリ、クッキリと映しだせる替わりにコントラストが強すぎて、明るい部分に合わせると暗い部分が潰れてしまい、暗い部分に合わせると明るい部分が明るくなり過ぎ、中間の明るさの部分が曖昧になってしまいます。だからといって中間の部分に合わせるとデジタルの良さであるハッキリ、クッキリ感が薄れて寝ぼけた画像になってしまうのです。オリジナル版がフィルムの作品は、フィルムでの上映の方が繊細に映し出せるのです。
映写機メンテナンス(※1
では邦画なら何でも上映出来るかというと、これも難しいのです。三鷹オスカーの場合、閉館した1990年の時点で3本立て1000円でした。
ところが、配給会社や作品によって条件が違い、3本立てでは駄目で2本立てや1本で上映して欲しいとか、1500円以上の入場料を取って欲しいとか、再ロードショーの予定があるので名画座には出せないとか、様々なハードルが存在します。
フィルム損傷事前チェック・補修写真(※2
三鷹コミュニティシネマ映画祭では2013年よりポータブルの35mmフィルム映写機を購入して上映しています。巷の映画館が次々とデジタル化されている昨今、時代に逆行している様ですが、だからこそ意義のあることだと思います。現在日本ではフィルム上映が出来ない映画館の方が圧倒的多数になっています。
ところが、全ての映画がデジタル化されているわけではなく、いまだにフィルム素材しかない作品が数多く存在するのです。
ですから、これからもフィルム上映にこだわり続けていくことで常設の一般映画館や他の映画祭との差別化を図ることも出来るのではないでしょうか?そして将来的には年に1回ではなく複数回開催出来る様になったり、定期的に上映が出来る劇場やホールを作れたら良いですね。
- ※1:映写で最も重要なのは映写機のメンテナンスと上映前のフィルムのチェックです。映写の仕事の9割は、この地味な作業で、スクリーンに投影するのは映写の仕事全体の、ほんの一部分にしかすぎません。フィルムは消耗品で上映する度に傷むのは避けられません。前に上映した劇場での損傷個所を事前にチェックして補修することで、トラブルを最小限に防ぎます。
- ※2:上映用のフィルム(プリント)は高価な品物で、ビデオなどと違って簡単にコピーは作れません。90分程度のカラー作品のプリント自体は30万円程度、黒白なら100万円位ですが、実際にはそれに製作者の著作権、配給会社の営業権など様々な権利による付加価値が発生し、邦画なら1本300万円から500万円位、洋画では製作本国との権利問題や字幕を入れる作業など加わり1000万円以上になる作品がざらにあります。ですから、映写ではプリントに不可抗力以外の傷をつけないようにする細心の注意が必要になります。その技術は、日頃の練習と経験でしか養われません。
鶴田浩司プロフィール
東京都大田区出身
1978年日本大学芸術学部映画学科卒
1980年7月~1990年12月 三鷹オスカーで番組編成担当。
1991年1月~1992年1月 東京シネドーム(後楽園シネマ)営業兼映写
1992年3月~1993年7月 関内アカデミー1、2、横浜日劇、シネマ・ジャック&ベティ営業兼映写
1994年~現在 映画評論、製作、宣伝など、三鷹コミュニティシネマ映画祭スーパーバイザー