映画鑑賞記「スリー・ビルボード」

公開日 2018年02月22日

スリー・ビルボード

監督:マーティン・マクドナー 
原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
製作年:2017年
製作国:イギリス


怒りは、複雑な感情だ。その裏側にあるのは、恨みや嫉妬といったものだけではない。そして、自分はそのことに気が付いていないのだ。

自分の娘を暴行された上に残虐に殺害されたミルドレッドは、犯人が捕まらないことに業を煮やし、3枚の看板を立てる。「レイプされて殺された」「まだ捕まらない」「どうしてなの?ウィロビー署長」と・・・

この作品で、怒りや暴力として表出される感情は、喪失、後悔、また、抑圧され、認められない自己、自己否定・・・。そして、それらが、あるきっかけで、気づきと赦しを得る。
予告編の印象とは違って、これは自分を認めること、赦すこと、赦される自分の物語なのだ。
3枚の看板、馬小屋、復讐についてのメッセージ…など、宗教的に深読みしようとすればいろいろできるが、そんなことをあれこれ言わなくてもメッセージは受け取れる。

ミルドレッドの悪態は、小気味がいい。それが少しずつ変化していく過程に観ている私たちの気持ちも揺り動かされる。そしてまた、ただの人種差別主義に見えたディクソンの内面が見えてくるにつれ、彼が意識しないまま諦め、隠していた哀しさに心をうたれる。

ラストをどう受け止めるかは様々だろうが、よい出来事が起こるわけでもないのに、見終わってなんだか爽やかな気持ちになった。高評価が頷ける作品だ。

2018年2月3日鑑賞 by K.T