映画鑑賞記「ナチュラルウーマン」

公開日 2018年03月28日

 
監督:セバスティアン・レリオ 
原題:Una Mujer Fantastica
製作年:2017年
製作国:チリ・アメリカ・ドイツ・スペイン合作
 
第90回 アカデミー賞(2018年)
第75回 ゴールデングローブ賞(2018年)
第67回 ベルリン国際映画祭(2017年)
 
 
オープニングにはイグアスの滝が映し出される。
淀まずとどまらず、何もかもを洗い流してしまう圧倒的な水の流れだ。
それがこの作品の根幹であるとも言えよう。
 
トランスジェンダーのマリーナは、年上の恋人を急病で失う。それを哀しんでいる時間もなく、亡き恋人の家族などから偏見と差別に満ちた扱いを受ける・・・
 
乱暴に言えば、LGBTを扱った作品は、ただ自分らしく生きようとする主人公プラスそれを自然に受け入れている人々、そしてそれを表面的、内面的に差別する人々という対立で描かれる。本作も、そう観てしまうと目新しさがない。
 
もちろん本作でも、女性なのか男性なのかという問いに、「一人の人間だ」と問われてきっぱりと答えるマリーナが受ける偏見と差別に、観客である私たちは彼女とともに悲しみ、怒る。私たちはあまりに酷い扱いに怒り、また彼女の怒りの静かさに苛立ちさえ覚える。
 
けれども、「一人の人間だ」と言う彼女は、知らず知らずに自分自身でその枠を狭め、また、自分自身がそれを信じてはいなかった。そしてそのことに、あのロッカーで気が付いたのだ。
彼女のあの静かさは、鎧ではなく殻であったのだ。
 
ネタバレになるので、ロッカーについては、詳述できず、なんだか喉に魚の骨がささったようなことしか言えないのだけれど、そのあとに彼女が示す行動と、彼女が舞台で歌う「オンブラマイフ」の歌声が、彼女の抱えているものがが形を変えたことを伝えているように感じた。そこがこの作品の新しさなのだと思う。見終えて、自分にも世界がもう少し広く見えるような気にさせてくれた。
 
しかし、何よりも、トランシュジェンダーの歌手であり女優である主演のダニエラ・ベガマリーナの存在感と美しさが圧倒的!
 
第90回アカデミー賞・外国語映画賞受賞。
 
2018.3.18鑑賞 by K.T