映画鑑賞記「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」

公開日 2018年05月21日

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

監督:ショーン・ベイカー
原題:The Florida Project
製作年:2017年
製作国:アメリカ
上映時間:112分

プロジェクト、とは、アメリカでは低所得者用団地を指す言葉でもあるらしい。
ヘイリーと、その6歳の娘のムーニーが暮らすモーテルは、安定して住む場所がない低所得者が住居として使っているところだ。

とんでもないいたずっこのムーニーはフロリダの太陽のように明るく、友達と過ごす毎日は笑顔と冒険といたずらに満ちている。しかし、彼女たちが置かれている生活の状況は、パステルカラーに塗られた建物やまぶしい太陽とは裏腹なものだ。

母親のヘイリーは職がなく、ダイナーで働く友達から子どもを預かる見返りとして食べ物をもらい、偽物の香水を売ってその週の宿代をまかなうような生活だが、
それすらもままならなくなっていく・・・

製作者は入念なインタビューを行い、社会の表層に見えていなかった「隠れホームレス」という事実を露わにしたが、本作はあくまでもドキュメンタリーではない。たとえば、本作では子どもたちが暴力にさらされる場面は全くないし、差別も描かれない。そして、管理人のボビーは彼らをぎりぎりのところで支えようとしている。

現実の状況はもっと厳しいはずだ。

6歳のムーニーがしゃべる汚い言葉や態度は、全て彼女の母親のヘイリーを真似たもので、彼女に悪気があるわけではない。そしてヘイリーも、そうなろうとしてなったのではない。ああいう態度も暴力も、未発達な感情も、それを自分が受け、日常となっていた環境の中で育ったからに過ぎない。つながった鎖だ。抜け出そうとしてもできない貧困の連鎖は、アメリカだけではなく、日本でも深刻な問題だが、しかしだからといって、ヘイリーとヘイリーの生き方に同情できるものではない。でも、彼女がムーニーを愛する気持ちだけは嘘ではなく、またムーニーも母親が大好きなのだ。

ムーニーは、いや子どもたちは、このような厳しい状況の中でも今この瞬間を体いっぱいに楽しみ、幸せを感じている。それが、哀しい。子どもたちにとってのこの眩い時間は続かない。解けてしまう魔法なのだ。

子どもたちの笑い声が満ちた一場面一場面は、その裏側がわかるだけに切なく、35mmフィルムで撮られた映像の美しさがそれに拍車をかける。構成もよく練られていて、ただのムーニーの日常の一コマだと思っていた場面の意味が明らかになったときには、何とも言えない気持ちになった。

「ハッピーエンドさえ凌ぐ誰も観たことのないマジカルエンド」と宣伝されるラストシーンの受け取り方は様々なのではないか。少なくとも私にはただただ切なかった。向かう先は、それだって作りものではないかと・・・

でも、確かに子どもたちにはまだ希望がある。社会ができることもまだ沢山あるはずだ。

2018.5.19鑑賞 by K.T