映画鑑賞記「万引き家族」

公開日 2018年06月27日

万引き家族


監督:是枝裕和 
脚本:是枝裕和
製作年:2018年
製作国:日本
上映時間:120分

老母の壊れそうな家で、その年金を当てにして暮らす家族。働きはしているものの、生活のために万引きや窃盗を仕事のように繰り返す。
社会的底辺の生活ではあるが笑いが絶えないこの家族は、それぞれが大きな傷を抱えている・・・


つい最近、5歳児の信じられないような虐待死のニュースがあった。

虐待死、のようなニュースを見ると私たちはひどい親だとか、防げなかったのか、というようなことを言う。けれど、事件にならないところには目を向けていない。「今」つらい目にあっている子どもにも、この格差社会の底辺で生きている人々にも。

本作は、貧困や虐待など、弱者が追い詰められるという、ずっと続いている社会の有り様、その存在を知りながら、目を向けようとしていない社会への問いかけであり、そしてまた、私たちが盲目的にとらわれている「家族」という呪縛についての私たち一人ひとりへの問いかけだ。

何が正しいのか、そもそも、正しいこと、と決めることができるものがあるのか、観客は自分に問い続けることになる。

映画として、わざとらしくなく押しつけがましくなく、そのようなメッセージが胸に響くのは、この家族がただ「良きもの」として作られていないからだ。映画的なファンタジーであるこの家族は、巧みな演技と、細部までのリアルさで、私たちの心の奥までするりと入り込んできて、ずしりと重い「問いかけ」を残す。

安藤さくらの、「憎かったのかもね、母親が」というセリフが、終映直後、頭に残った。
そして、時間がたつにつれ、他のセリフ、シーンの一つひとつが蘇り、ああそうなのだ、と何度も心を揺さぶられた。

いい映画でしか体験できないことだ。

2018年6月9日鑑賞 by K.T

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