映画鑑賞記「荒野にて」

公開日 2019年04月29日

荒野にて

監督:アンドリュー・ヘイ
原題:Lean on Pete
製作年:2017年
製作国:イギリス
上映時間:122分

どこからかここに引越し、学校にも行けず、時折、食べ物もにも事欠くような貧しさのなか、父親と二人で暮らす15歳の少年、チャーリー。ある日ジョギング中に見つけた競馬場で仕事をするようになり、引退も間近の競馬馬リーン・オン・ピートと出会う。馬のピートに愛情を注ぐチャーリーだが、父親が死に、またそこから時を置かずにピートの殺処分が決まる。チャーリーは、ピートを連れて逃げることを決めた。

15歳。無邪気な子ども時代はすぎたけれど、間違いなく大人ではない。ひとりで生きるにはまだ早く、守ってくれる環境も、抱きしめてくれる人もあるからこそ、そこから自分の足で踏み出せるようになるはずだ。

チャーリーからはそれが奪われた。

なぜチャーリーが学校に行っていないのか、父親に何があったのか、貧しさは伝わってくるものの詳しくは語られない。チャーリーを学校に行かせず、時には食べ物もない状態で数日家を空ける父親は、それでもチャーリーを自分のやり方で愛し大切にしている。おそらく父親自身もそういった境遇にあったのだろう。他人の助けを断固拒否する父親の姿勢は、信頼できるものがなかった結果で、連鎖する貧困がここでも描かれている。

ピートを連れての逃避行。15歳らしい無計画さと衝動。
一人と一頭の旅は行き着く場所などあるはずもなく、乾いた広大なアメリカの大地を彷徨う姿は、ダークなおとぎ話のようだ。
それは悲しくもとても美しい。

そしてこの旅は、ある事件からおとぎ話ではなくなる。

ホームレスの人たちの中にいて「ぼくはホームレスではない」と言葉を返す彼に、同じとは言わないが、こういった状況から抜け出さなければならない、抜け出したいと思っている子どもたちのために、社会がすべきことがあるはずだ、私たちに何ができるのかと考えさせられる。

学校に行ってもいいか、学校でまたフットボールがしたいんだ、そんな当たり前のことを尋ねるチャーリーが切ない。ただ安心していられる場所、そんな私たちが当たり前のようにもっているものがいかに大切なのか、ラストシーンでの彼の表情が教えてくれるようだ。

原題はLean on Pete。
馬の名前ではあるが、他人を頼ろうと思えることは幸せなのかもしれない、とも思わされた。

2019年4月14日鑑賞 by K.T

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