映画鑑賞記「テルアビブ・オン・ファイア」

公開日 2019年11月30日

テルアビブ・オン・ファイア

監督:サメフ・ゾアビ
製作:2018年/ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作
原題:Tel Aviv on Fire

物騒なタイトルだけれど、これは、作中、制作しているというテレビドラマのタイトルである。

サラームは、叔父のコネで人気ドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」のヘブライ語会話指導という仕事をもらう。
ほぼお情けでもらったような仕事なのだが、職場から居住しているエルサレムに戻る途中のイスラエル軍の検問で、自分はそのドラマの脚本家だと言ってしまう。
すると、自身の妻と母親がその大ファンだというイスラエル軍司令官・アッシにつかまり、アッシから番組に対するアイデアの登用を強制されるのだが、そのアイデアが受けて正脚本家に昇進してしまう。
その後、イスラエル人らしい(また妻の希望を叶えたい)結末になんとしても持っていこうとするアッシと、バレスチナ人としての結末を求めるプロデューサー(叔父)の間に挟まれたサラームが作った衝撃のドラマの結末とは・・・

イスラエルとパレスチナの問題を描いた映画は今までにもいくつもある。「オマールの壁」、「歌声にのった少年」などが印象的だ。
しかしこの作品が特筆すべきなのは、このなんともやりきれない対立をコメディーで描き、さらに問題の深さをはっきりと示しつつも、その先に希望を見せたところだ。
パレスチナで制作されている「テルアビブ・オン・ファイア」という番組~第3次中東戦争直前にスパイとしてイスラエルに潜入した美女が情報を得るためにイスラエル軍の将軍を誘惑する・・・というような話~が反イスラエル映画でありながら、イスラエルでもパレスチナでも人気になっているということ、それから、国民食「フームス」。
イスラエル人もパレスチナ人も、変わらない、という強いメッセージに他ならない。
イスラエル軍の一方的な横暴にうんざりしながらも、だんだんそれが茶番のように見えてきて、心の底では皆、この状態が異常であって変えるべきであると思っているにちがいないと、というか、そうしなければならないのだと思わされる。

日本とは遠いところの問題だけれど、まずはこういうふうに知っていくのもいいのでは?

でも、そんなことを意図しなくても、もちろん十分に笑えて楽しい作品だ。

ちなみに、私も鑑賞後に調べたことなのだけれど、ひよこ豆のペースト「フームス」というのは、一般的には、イスラエルの食べ物と認識されているが、ルーツはイスラエル建国以前のアラブにあるらしく、しばしば論争に(どちらがオリジナルなのか、とか)になるような大切な食べ物らしい。また、作中チラっと言及される「オスロ合意」は、1993年に調印されたもの。私は調印前にイスラエルに旅行したこともあり、調印された直後は画期的だ!と思ったけれど、結局実効性はなかったのだった・・・とあらためて考えさせられた。

2019.11.24鑑賞 by K.T