映画鑑賞記「エイブのキッチンストーリー」

公開日 2020年11月27日

エイブのキッチンストーリー

製作:アメリカ・ブラジル  2019年
原題:ABE 
85分 PG-12

ニューヨーク・ブルックリンに住む12歳のエイブのバックグラウンドは少々複雑だ。父方の家族は、パレスチナ出身のモスリムで、母方の家族はイスラエル出身のユダヤ教徒。相容れない関係だ。
エイブの両親はその複雑さから離れてエイブを育てたいと考えているが、でも、エイブはイスラム教もユダヤ教も両方を大切にしたいと思っている。

夏休みに、フュージョン料理のシェフに出会ったエイブは、そこで学んだことも踏まえ、集まるたびに諍いが始まる双方の家族の溝を得意の料理で埋めようとするのだが・・・

おいしいものはひとを笑顔にさせるし、おいしいものでお腹が満たされると誰でも幸せになる。おいしい食べ物が、人と人の隔たりを埋めていく、という話は映画でもよくあるパターンだが、本作が一味ちがうのは、エイブが、異なるものを混ぜ合わせたフュージョン料理を作ろうとするところ、料理を材料に、そしてメタファーとして使い、異なる人々が一つになれるということを表現しようとしたところだろう。

異質なものを単に合わせるのではなく(「ラーメンタコス」みたいな!)、塩味、甘味、苦味、酸味、うま味、食感、これらを理解し調和させて新しいおいしさを生み出すのがフュージョン料理だと、エイブはブラジル人シェフのチコに習う。

なんともおいしそうなブラジルベースのフュージョン料理のように、エイブは、そしてこれからの世代は、背負った歴史、宗教、世代、思想の違い等を軽やかにフュージョンさせて、新しい時代を築いていくことができるのだと、そういうメッセージを感じた。

エイブの暮らすニューヨークは、その昔「人種の坩堝(メルティングポット)」と言われ、いやいや溶けあっているわけではないから「人種のサラダボウル」に言い換えられたというような経緯があるけれど、ニューヨーク、アメリカに限らず、「メルティングポット」を目指すというのが本当なのかもしれない。

さて、そんなエイブの足を引っ張るのは、過去に縛られた大人たちだ。

エイブの祖父母はホロコーストも、第二次世界大戦も身近で、中東戦争では当事者だから、抱えているものは確かに大きい。それを知っている子=エイブの両親は、だからこそそこには関わらないという固い信念がある。しかしそうは言っても!その溝を埋めようと必死のエイブに対して、大人気なさすぎ!

これは、変わるべき大人の問題でもあり、成長すべき家族の問題でもある。

大作ではないけれど、そんなふうに、宗教・中東・人種問題そして家族、子どもの成長など、ひとつでいくつもの「味」が味わえる作品だ。また、18日間で撮影されたという本作は、SNSの使い方を生かしたテンポ感も新鮮で、これも新しい時代を感じさせてくれる。

注意点がひとつ。とんでもない「飯テロ」になるので、必ずお腹をいっぱいにしてから映画館へ!

ついでに、食べ物が文化の違いを越えるというオススメ映画を。
マダム・マロリーと魔法のスパイス

さらについでに、アジア人にとって超「飯テロ」になり、かつ心にしみる家族の映画。
恋人たちの食卓
 

外出、外食がまた行きづらくなってきましたが、おいしい映画を家で楽しむというのもアリかもしれませんね!

2020.11.21鑑賞 by K.T