映画鑑賞記「明日の食卓」

公開日 2021年06月23日

明日の食卓

監督:瀬々敬久
製作:2021年/日本 124分

同じ年、同じ名前の子を持つ10歳の少年をそれぞれ別の場所、異なった環境で育てている3人の母親たちが徐々に破綻へと向かう物語が、並行して描かれていく。

一人は理解のない夫のもとで仕事に復帰しようと奮闘し、もう一人は夫の母親と二世帯住宅(敷地内別居)で専業主婦、最後の一人は困窮しているともいえるシングルマザー。それぞれが夫婦関係や家庭の問題を抱えつつ10才という難しい年代の男の子を育てている。母親であることの難しさと子育ての難しさを考えさせられる作品だ。

3人の母親(実は3人ではないけれど)を描いたことで、これが誰にでもどこにでもあることなのだと感じさせられる。この国が抱えている母親の問題を集めたかのような設定に、誰もがどこかで同調し、あるいは反発し、憤り、心を痛めるのではないだろうか。

母親たちが抱えるものの大きさもさることながら、3人の少年のモノローグが入ることで、さらに、子どもたちの心の苦しさに胸が痛む。

10才といえば発達心理学的にもいわゆる「壁」にあたる年代だ。子どもたちの心の中も今までとは違う認識や感情が生まれてきて戸惑うときで、まだ両親に甘える気持ちもある反面、冷静に親や社会を見ることができるようになってくる時期だ。一方親は、一体感を持ち、いままで自分の胸の中にいて、理解できると思っていたものが、理解できないもの=一人の人間へと変化していくのに戸惑う。

そんなことがわかっていながらも、自分の子どもだったらどうしたらよかったのか、と、誰もが考えさせられるだろう。

子育ての難しさ、母親であることの難しさを痛感させられるが、母親だけが親ではない。子育ては親にあたるべき人間がすべきではあるがそれは母親だけのものではない。本作の徹底した男性排除(出てくる男はみなダメダメなのだ)にそういったメッセージも見た。

子育て経験がある人にも、ない人にも、それぞれに大きな課題を与える良作だと思う。

2021.5.31鑑賞 by K.T

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