映画鑑賞記「空白」

公開日 2021年09月28日

空白

監督:吉田恵輔
製作:2021年/日本
107分


万引きが見つかり走って逃走する女子中学生が、道路で車にはねられ死亡する。女子中学生の父親は追いかけた店長や学校の過失だといって彼らを責め立て、狂気をまとっていく・・・

本作の副題は「イントレランス」。「不寛容」だ。

死亡した娘の父親は、娘はもちろん周囲の誰に対しても非常識に傲慢で高圧的だった。事故後は自分の娘の万引きを否定し、追いかけた店長や、いじめがあったのでは?と学校の責任を異常に責め立てる。自分の見たいもの以外見ないという姿勢は不寛容を体現しているようだ。

スクリーンを見ながら、それが喪失による異常さだとわかっても、その姿はただただ不快で、彼の苦しみが自らの作り上げた殻から抜け出すためのもがきであるということに思いが至らない。

が、やがて、そもそも不寛容なのは、「正しい」「正しくない」「被害者」「加害者」という一元的な言葉を振り回す私、ひとつの事件を眉をひそめたり同情したたりするふりをしながら自覚なくただ消費している私のほうなのだと、思わされた。

良くできた作品だから、感じられたことだ。

重い物語に始まるが、重いままでは終わらない。希望といっていい方向に向かっていくのだが、父親が変わるため、その殻にヒビを入れるために二人の人間が犠牲にならなければならないという描き方は、正直私は釈然としない。でも不寛容な私たちが変わるためには、それほどの大きな喪失が必要ということなのかもしれない。その犠牲は、イエス・キリストのようにも見えた。みなさんはどう見るだろうか。

とにかく、重い話だけれど最後にはうるっとくる、映画館でじっくり観るのに相応しい、というか、出演者の素晴らしい演技~狂気にかられたような状態から変化していく父親役の古田新太、追い詰められて徐々に疲弊していくスーパーの店長の松坂桃李、「正しいこと」に固執する寺島しのぶ、古田新太を支えようとする部下の藤原季節~を味わうためにも是非映画館という暗闇の大画面で!

2021.9.26鑑賞 by K.T

<おまけ>
なかなか上映に出会う機会がなさそうなのでご紹介しにくいのですが、今月初めに観た「かば」という作品もおすすめです。1985年の大阪の荒れた中学校で、生徒たちに向き合っていた先生たちの実話。
「金八先生」?と思われるかもしれないけれど、使われているエピソードもセリフもすべて実際のものと知ると、子どもたちの置かれている状況も含めて胸が熱くなります。ディスク化の予定がないそうなので、どこかで上映を見かけたら迷わず観てほしいです!

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