映画鑑賞記「クレッシェンド 音楽の架け橋」

公開日 2022年02月28日

クレッシェンド 音楽の架け橋

原題:Crescendo
制作:ドイツ/2019年/112分
監督:ドロール・ザハヴィ

有名指揮者エドゥアルト・スポルクが、パレスチナとイスラエルの若者でオーケストラを編成しコンサートを開くというプロジェクトを引き受ける。しかし、参加した若者が持つお互いの民族への憎しみからプロジェクトはなかなかうまく進まない。そこで、スポルクは彼らを家族や現在の状況から離してスイスで合宿をすることを提案。彼らは寝食を共にしながら徐々にお互いの距離を縮めていくのだが・・・

 

本作は実話をもとにしている。
もとになっているのは、1999年に設立されたウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団。ダニエル・バレンボイム(ユダヤ系)がオーケストラを指導し、パレスチナ系文学者のエドワード・サイードがディスカッションを行うというものから始まり、現在でも音楽活動が続いているそうだ。

その楽団の構成員は、10代から40代で、イスラエルとその周辺のアラブ諸国、ということだが、本作は、イスラエルとパレスチナの若者という設定。これからの未来を作る世代だ。

爆音と、催涙弾の煙の中で怒ったようにヴァイオリンを弾く姿と、いかにも裕福そうな家の中で穏やかに弾く姿。冒頭のその対比から、この物語がどのよううに向かっていくのかと、引き込まれる。

イスラエル兵の理不尽な検問や、今現在のパレスチナの状況から、パレスチナ人はイスラエル人を許容することはできないし、イスラエル人の若者たちは自分の祖父母の歴史から許せないものと譲れないものを持っている。そんな彼らが一つの音楽を作っていくという過程は、この分断を乗り越えるのは、いつか来る未来のことではなく、今進むべき一歩だと、あらためて感じさせられる。

手放しのハッピーエンドとはならないのだが、それはこの問題を終わらせることがいかに難しいかをはっきりと示し、でも、エンディング前では、その先にある希望を信じるというメッセージを力強く見せてくれたと感じた。

音楽の持つ力は美しく、そして強いのだ。

 

2022年2月4日鑑賞 by K.T