公開日 2022年08月29日
製作：フランス／2020年 105分
原題：Un triomphe
監督：エマニュエル・クールコル
売れない俳優のエチエンヌは、刑務所の受刑者向けに演劇のワークショップをしているが、彼らを見ているうち、このクラスでサミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」をすることを思いつく。 ああだこうだでやっと上演までこぎつけたが、これが意外にも好評で、あちこちの劇場からオファーがくるまでに。最終公演のオファーはなんとフランス一番の劇場、パリ・オデヲン座！果たしてこの公演の行方は？
スウェーデンの刑務所で起きた実話がベースだそうだ。
実際のエピソードを知っていても知らなくても、この舞台は喝采（アプローズ）だけでは終わらないのでは？やっぱり終わらないよね？という緊張が最後まで続く。コメディ仕立てでありながら、緊張感とドキドキが抜けない物語だ。
「ゴドーを待ちながら」を演じることは、彼ら受刑者に何をもたらしたのか？ エチエンヌも、刑務所所長も、その成果を誇示したいと思う。演技を＜指導＞し、機会を与えて＜やった＞ことで起こる彼らの自己肯定感の向上を、作品を理解することで起きる心の変化を、彼らが長いセリフを覚えてこの難しい作品の演技をするということができるということを。
しかし、彼らに何かを与えて＜やった＞、というその姿勢は、彼らを対等の人間として見ていなかったということには気がつかなかったのだ。人が人を変えられるというのは、そして、人を自分の文脈で理解できると考えるのは思いあがりなのだと、改めて思わされた。
エチエンヌも、最後にそれに気がつく。変わったのは、成長したのは、指導された受刑者たちではなく、指導していたエチエンヌのほうだったと。ラストの、それを理解したエチエンヌのスピーチが爽やかに心に響く。後味の良い作品だ。
2022年8月16日鑑賞 by K.T