映画鑑賞記「ある男」

公開日 2022年11月24日

ある男

監督:石川慶
製作:2022年//日本

 

里枝は傷心の中、谷口大祐という男とであう。再婚し、家族も増え、幸せに暮らしている中、大祐が事故で亡くなる。ところがその死後、夫は「谷口大祐」ではないことがわかった。では、この男はいったい・・・


この男はいったい誰なのか?そして「谷口大祐」はどこに行ったのか?この男はなぜそしてどうやって谷口大祐となったのか?そんなミステリー仕立てで物語は進む。

それだけでも大変面白くはあるのだけれど、ある場面で「在日」という言葉がでる。その言葉がひっかかる。さらに、ヘイトデモ、死刑廃止のトークショーの場面が。そしてこの作品は、ただの推理ものではなく、スティグマ~自分個人とは関係のない、出自や民族、家族関係に起因する~とそれに対する根深く消えない偏見が根底に流れていると知ることになる。

目の前の、その人だけを見るということがなんと難しいことか。

最後に自分の夫が誰なのかがわかったときの里枝のセリフ、里枝の息子のセリフが希望の光のように感じられた。

スティグマから逃げるためには別人になるしかない。そうやって生きていくしかできない人たちがいる。里枝からの依頼を受けた弁護士城戸は、「谷口大祐」を探す過程で、いつしかその思想に惹かれていったのではないだろうか。ラストに彼が何と答えたか、映画では明らかにされていないその答えをあなたはなんだと思いますか。

冒頭とラストに出てくるのは、ルネ・マグリットの「複製禁止」という絵画。鏡を見ながら鏡に映らないその男は自分自身を見たくないのか、見られたくないのか・・・あるいは、誰でもない男になりたかったのか。

2022.11.20鑑賞 byK.T

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