映画鑑賞記「対峙」

公開日 2023年02月24日

対峙

原題:Mass
監督:フラン・クランツ
製作:アメリカ/2021年/111分

6年前に起きた高校での銃乱射事件。その被害者の一人の両親であるペリー夫妻は、セラピストの勧めで、犯行後自殺した加害者の両親と会うことに。彼らは一体何を話すというのか・・・

郊外の小さな聖公会の教会。塔の鐘が映るが、どうも壊れているようだ。教会の、おそらく牧師の妻が買い物袋を抱えて入って来る。落ち着かない様子だ。あれこれ考えながら半地下の一室のしつらえを整え始める。

ここまでの何気ない描写だけでもここで何か特別なことが行われるという緊張感がすでに伝わってくるのだが、とにかく、111分の間とてつもない緊張感が続く作品だ。

高校で起きた銃乱射事件の被害者・加害者、双方の遺族の対話であるということはすでにわかっているのだが、彼らが登場してもまずはどちらが被害者なのかは明らかにされない。観ているほうは、そこからも緊張して見守っていくことになる。さらに、事件の内容も映像を挿入することなく、ただ双方の会話の中だけで徐々にわかっていく。そのために私たちもよりスクリーンで行われる会話に集中してしまうのだ。

被害者遺族であるペリー夫妻は、様々な権利を放棄し、責めてはいけないというセラピストのアドバイスを胸にこの場を設けた。会合は、まるで久しぶりに会った知人同士のような会話で始まる。お変わりはありませんか、ご家族はお元気ですか・・・・娘はカレッジに通い始めました、息子は子どもが生まれました・・・

事情を知っている私たちとしては、触れてはいけないものの大きさと、「それ」はどう始まるのかという緊張感がますます高まっていく。ほんの一つの言葉、ほんの一つの動作で、この、表面的な静寂は崩れていくのだとわかっているから。

映画のほとんどの時間は、この4人の会話だけで進む。

「(犯人である)息子さんの話をしてください」と本題への口火を切るペリー夫人は、感情的で、夫がそれを抑えているように見える。その抑えていたものが、やがてはち切れる。また、加害者の母親が話そうとすることをたしなめようとする父親。その姿がやや傲慢に見える。でもそれは自分の心を保つ盾であり、徐々に内面があふれ出してくる。交わされた一つ一つの言葉で次々と変化する彼らの心、表情から一時も目が離せない。観ている私たちも、被害者と加害者と、その両方に大きく気持ちを揺さぶられるのだ。

そして私たちにそう思わせる脚本も演技も秀逸だ。

ペリー夫妻は、6年の間、犯人はなぜそのような行為に走ったのか、それは避けることができなかったのか、なぜ息子が死ななければならなかったのか、それを考える苦しみの中で生きてきて、この対話を選んだ。少年が犯人であるこういった事件を耳にすると私たちは、犯人の親はそんな子どもの様子に気が付かなかったのか、どういう育て方をしたのか、無関心だったのではないか、何か原因があるだろうと考える。そう考えたいと思っていると言ってもいい。けれども加害者の両親も、我が子の心の中に起こったことはわからないし、同じようにわが子のことを愛していた。そして子どもを喪ってしまったということもまた同じなのだ。

この対話がどうなるのか、そのネタバレはできないけれど、必ず、観てよかった、と皆さんも思うでしょう。

原題は「mass」。最後に流れる讃美歌が美しい。

校内の銃乱射事件を扱った映画には「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002)、「エレファント」(2003)などがあるけれど、本作を観たときには、「君が生きた証」を思い出しました。難しい主題です。

2024.2.12鑑賞 by K.T

関連ワード