映画鑑賞記「怪物」

公開日 2023年06月26日

怪物

監督:是枝裕和
製作:2023年(日本)/126分 /

女手一つで息子・湊を育てる早織は、ある日息子が担任からいじめられているのではないかと疑い学校に行く。木で鼻をくくったような学校の対応、信頼できない担任の態度に苛立つのだが・・・

よくできた作品だ。
芥川龍之介の「藪の中」方式で、一つの状況を違う立場から見るという設定になっている。私たちは、この三つの視点から見ることで、自身の思い込みや偏見を痛感することになる。

最初は、息子が教師からのイジメを受けていると思う母親の視点。次はその教師の視点。最後が、子ども(たち)の視点だ。 
それぞれにはそれぞれの思い込みがある。それにより、それぞれが見るものは全く違ってくる。でも、その違って見えていたものは、(「藪の中」とは違って)結局皆繋がり、全ての伏線は回収されていく。見終わったあと、あれはこうだったのか、これはこうだったのか!と、はっと気づくのだ。

さて、怪物とは誰の(なんの)ことか。

いろいろな解釈ができると思うのだが、「悪気ない悪意」のようなもの、誰でも意識せずに待つ偏見あるいは、見えない圧力、とでもいうようなものではなかっただろうか。

そう、怪物とは、傍観者である私たち、この、空気で流れていってしまう社会そのものではないか。

母親、教師、子どもたち、誰も悪くない。母親は子どもを守り、教師も子どもを大切に思い、子どもも母親を愛し、彼らなりに懸命に生きている。それがよくわかるだけに、つらい。どうすればよかったのか?その答えが、見つからないことに胸が痛むのだ。

あなたにとって、怪物は何に見えましたか。

じっくりとスクリーンと向かい合って考えてほしい作品だ。

*ちなみに、本作は今年のカンヌで脚本賞を受賞している。脚本は、「花束みたいな恋をした」の坂元裕二氏。

2023.6.4鑑賞 by K.T

 

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