映画鑑賞記「ルース・エドガー」

公開日 2020年06月24日

ルース・エドガー

原題:Luce
監督:ジュリアス・オナー
製作:2019年/アメリカ
110分

ルース・エドガーは、17歳の高校生だ。アフリカ・エリトリアの少年兵だったのを7歳の時に現在の養父母に引き取られ、現在は成績優秀、スポーツにも秀で、ユーモアもあり、その高校で「バラク・オバマの再来」と称される模範的なアメリカ高校生となっている。そんな彼が、歴史の授業で暴力を肯定する革命家についてのレポートを書いたことで、アフリカ系の女性歴史教師と対立するようになる。ルースは優等生の仮面の下に過激な思想を隠し持っているのだろうか?


「彼は完璧な優等生か、恐ろしい怪物か」
というコピーから、当然鑑賞前は、「怪物」である主人公を頭に描いていたせいか、幸せそうな表面の下から今にも何か邪悪なものが爆発してきそうな緊張感(内容は全く違うのだけれど「ゲット・アウト」の緊張感を思い出しました)がずっと続き、サスペンススリラーのように感じていた。不協和音や人の声を効果的に使った音楽も、色調を抑えた映像もとても効果的だ。

けれど、ストーリーが進むにつれ、何が起こるのかという緊張より、ルースが抱える苦しさのほうに気持ちが動いていった。アフリカの戦地から救い出されてアメリカ人になれた幸せに感謝すること以外に、何もしてはいけないという苦しさに・・・・

「おまえはルースだよ」とさらっと言った友達の言葉が救いだ。

ルースが実際に何をし、何をしなかったのか、はっきりと描かれない部分もあり、その解釈も、そして作品時自体の解釈も人によって分かれると思う。それが本作の魅力で、それぞれの心に深く残り、見終わってから、いろいろと話してみたくなる良い作品だ。

人はみな、人に何かしらのラベルを貼っている。はっきりとした自覚がなくても「あの人はこういう人」という、何気ないものから自分の思い込みまでを。
自分の子どもはこうあってほしい、自分の生徒は、自分の上司は部下は会社は・・・
集団に、偏見によるネガティブなラベルをつければ、それが差別につながる。また差別される側も、自らに「戦うためにこうすべき」というようなラベルを貼る。ルースと対立していた教師も、つけられたラベルと戦うために自分や生徒にラベルを貼っていたのだ。
そう私たちは自分自身にもラベルをつけている。正しい人間である、とか、よい人間である、とかも。
そのラベルをつけた役を演じようとしている、といっていいのかもしれない。

ラベルの向こうにある本当のことを見るべきなのに、それはできているだろうか?

私は、そんなことを本作に考えさせられた。

さて、あなたは、知らず知らずのうちに自分にどんなラベルを貼っていますか?
あなたの愛する人にラベルを貼っていませんか?

2020.6.13鑑賞 by K.T