映画鑑賞記「ケイコ 目を澄ませて」

公開日 2022年12月28日

ケイコ 目を澄ませて

製作:日本/2022年/99分
監督:三宅唱

ケイコは生まれつき耳が聞こえない。そのハンデを押し切り、彼女はプロボクサーとして古い小さなジムでトレーニングを重ねている。
試合には勝利したものの、彼女の中には、様々な思いが積み重なっていく。そんな中、ケイコのジムが閉鎖されることに・・・


まず驚くのは、ケイコ役の岸井ゆきのの演技力だ。健常者で、ボクシング経験もなく、それなのにケイコの、耳の聞こえないボクサーとしての動きと感情のゆらぎをあんな風にだせるとは!

映画としては、聴覚障害者の日常のトラブルも描いてはいるし、ゴングもレフェリーの声も、セコンドの指示も全く聞こえないという状況の中でなぜケイコはプロボクサーになろうとしたのか、ということも問いかけてくるけれど、それだけではなく、ボクシングをやる上での葛藤、なぜ自分は毎日厳しいトレーニングをして、痛い思いも怖い思いをしてもやろうとするのか、その心の振れが、こちらが苦しくなるくらいに伝わってきて、ケイコの聴覚障がいは二の次にも思えるのが素晴らしい。そう、私たちは等しく生きているのだから。

映画の音は、音楽は最小で、生活音というか、雑音が終始大きく流れる。ノートに走らせる鉛筆の音、街の雑踏・・・。「コーダ愛のうた」などでも、意図的に生活音を聞かせてきたが、この音を彼らはは全て聞けず、私たちは常にこの音にさらされているのだと、考えさせられる。そのなかで、耳障りな雑音の中に時折聞こえる、リズミカルなミット打ちや縄跳びの音が心地いい。雑踏の音は聞こえなくても、ケイコもこれをきっと感じているのだろう、と感じさせる、そんな音の使い方、そして16mmフィルムで撮影した映像の温かさも素晴らしい。

ボクシン映画でもなく障がい者の映画でもない。それを越えて、多かれ少なかれ誰でもが持つ迷いと成長と、それから人の温かさをを静かに力強く描いた名作だと思う。今年の最後に、心が温かく、力づけられる作品を鑑賞することができて良かった。

2022.12.24鑑賞 by K.T