映画鑑賞記「ふたりのマエストロ」

公開日 2023年09月11日

ふたりのマエストロ

製作:2022年/フランス/88分
原題:La Scala

クラシックの指揮者として、パリで名を馳せている父フランソワと息子ドニ。ドニが名誉ある賞を受賞したことにどうにも面白くないという反応をしているフランソワのところに、憧れであったミラノ・スカラ座の音楽監督への就任を依頼する電話が!大喜びするフランソワと、悔しさを隠せないドニだったが、実は依頼されたのはドニで、さらにそれを自分で父に告げなければならず・・・。


父と息子の映画はいろいろあるけれど、ここまで拗らせたのは珍しいのでは?

イスラエル映画のリメイクである本作は、父と息子がやっと認め合えたという物語で、普通なら、「多くを語らない父のことを息子がやっと理解できた」とか、
「ダメ息子が成長し、父に認められた」などというハナシになりそうなのだけれど、確かに息子が一つ成長(?)するという物語ではあるのだけれど、ちょっと違うのだ。

孫が18歳だから、息子は40代、父は70代ぐらいであろうか。

父は息子の成功を祝えない。自分もそれなりの成功と名誉を得ているというのに、息子の成功が面白くないようなのだ。(そのあたりにもっと複雑な事情があるのかもしれないが、それは描かれておらず、それっぽい話は嘘だったみたいだし、少なくとも私には読み取ることが出来なかった。)

一方、息子の方は、まあ、おそらくそのように幼い頃から放っておかれた気持ちが拗れて、現在のわだかまりになっていることもあろうが、そんな父親を厭っている。

指揮者という同じ世界で、息子にとっては、父とは違うスタイルで成功したという自負、父にとっては自分の方が上だというプライド(実は表現されるスタイルはとっても似ている、というところもひとつのポイントだけれど)。なんとも面倒くさいというか歯痒いというか・・・

でも、それが人として自然なのだろう。父は父である前に一人の人間であるし、親子には親子の数だけの関係性があるのだから。

父と息子というものの複雑さ、そしてまた、長い歳月を経てやっとわかりあえるまでの道について考える機会になる作品だ。次の世代の「父と息子」となる孫にあたる青年もとてもいい味を出していて、よいバランスをとっている。

言葉足らずのところもある本作ではあるが、ふんだんに挿入されるクラシック音楽が素晴らしい!

私はクラシック音楽への造詣は深くないのだけれど、有名な曲ばかりで・・・(小澤征爾はやっぱり凄いのか!と知ったり!)

そして、指揮者が舞台に立つ前に、自分でどれだけ時間をかけて曲の解釈をし、どれだけオーケストラとそれを共有するリハーサルをするのかを考えると、ラストの舞台のシーンが一層心に響く。

音楽のチカラは最強!

2013.8.19鑑賞 by K.T