映画鑑賞記「土を喰らう十二か月」

公開日 2023年12月25日

三鷹市芸術文化センターでは、9月から1か月おきに、「CINEMA SPECIAL 料理が心を結ぶ映画特集」と題し、料理に関連する映画が上映されています。
今回は、その第4回、2024年3月23日(土)上映の映画「土を喰らう十二か月」について!

土を喰らう十二か月

製作:2022年/日本/111分
劇場公開日:2022年11月11日
監督:中江裕司

作家のツトムは亡き妻の遺骨とともに長野の山荘に一人で暮らす。山の水で畑の野菜の土を洗い、米を研ぐ自給自足の日々だ。時折、担当編集者であり恋人の真知子が東京から訪ねてくる。季節ごとの食材で彼女をもてなす。そんな彼の変わらぬ毎日に少しの変化が・・・


水上勉のエッセイ集「土を喰らう日々ー我が精進十二ヶ月」を原案とした作品だ。
書籍の方は、ストーリーといったものはなく、十二の月ごとに、水上勉が少年時代に禅寺で学んだ精進料理やそのエピソードが語られている。舞台は軽井沢の氏の別荘であるし、その時は奥様も東京で元気であるので、映画作品は本当に「原案」というだけなのだろう(梅干しの逸話は原作にありますが)。区切りも、映画の方は「十二ヶ月」ではなく、二十四節気だ。

啓蟄、まだ雪の残る季節。雪の下からとったほうれん草のお浸し、炭火で焼くこいも、囲炉裏であたためた燗酒・・・

晴明、春の光に照らされる緑美しい山で採る山菜、水辺で摘むせり・・・

二十四節気に合わせて収穫した山や畑の幸と、羽釜を使い、かまどで炊くツヤツヤのご飯。丁寧で、手間をかけ、且つ余計なことをしない仕事はなんと美しくそして美味しそうなことか。

土井善晴氏監修の身土不二の精進料理と、季節ごとに変わる長野の山の風景は、ただただ美しい。日々時間に、忙しさに追われている私たちには羨ましく、何よりも贅沢な時間にうつる(もちろん実際にするとなったら、面倒で大変!)。

本作は、特に前半は、ストーリーらしいストーリーがあるわけではない。美味しそうで、美しい映像にひたすら見とれ、そして後半は、「命」に向き合う流れになる。

土から生まれたものを食べて生きる私たちはやがて土に還る。食べることは生きることであり、生きるというのはやがて死ぬことだ。

そしてまた、日が沈み、眠り、日が昇り、目覚める。それは、もう一度新しく生まれることに似ている。その日1日を慎ましやかだが精一杯生き、次の日はまた新しい一日の始まり・・・
そういえば、昨日観た「PERFECT DAYS」にも少し通じるかも?こちらは超オススメです!

大きな盛り上がりなどがある作品ではないけれど、食べ物の美しさと風景の美しさ、そして、こういう生き方の潔さとその奥にほんの少しある孤独みたいなものを感じながら過ごす満ち足りた111分となるはず。私としてはちょっとひっかかるところもあるにはあるのですが、美しいことは文句なし!この美しさを大きな画面で是非!

by K.T