映画鑑賞記「ポトフ 美食家と料理人」

公開日 2024年01月25日

三鷹市芸術文化センターでは、昨年9月から、「料理が心を結ぶ、映画特集」として、様々な映画作品が上映されている。今月1月は27日に「南極料理人」、そして最終日の3月23日は「土を喰らう十二か月」ということで、それらの作品を紹介しましたが、今月はまた印象的な料理の映画がありました。

ポトフ 美食家と料理人

原題:La Passion de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu)
製作:2023年/フランス/136分
監督:トラン・アン・ユン

緑に囲まれたフランスのシャトーで、美食のナポレオンと呼ばれるまでに名を馳せた美食家ドダンは、完璧な料理をする料理人ウージェニーと日々、食を追求している。ウージェニーなくして彼の料理は成り立たず、何より彼はウージェニーを愛し、求婚をしているのだが、対等の関係でありたいと望むウージェニーは結婚を望まなかった。ところが、ウージェニーが病に倒れる日が・・・

まずは何よりも料理の場面が素晴らしい。

「土を喰らう十二か月」では、旬の採りたての野菜やていねいな仕事が今や贅沢になったと書いたが、土から野菜を取り出す場面から始まる本作は、なんとも贅沢な作品だ。

舞台はおよそ100年前のフランス。土までがおいしそうなオーガニックの野菜や、内臓を取り出す場面もあるまるごとの肉や魚。それらをふんだんに使って、手間も時間も惜しみなくかけた料理の様子が冒頭から繰り広げられる。完成した料理はもちろんゴージャスでおいしそうだけれど、料理の場面が贅沢で鮮やかでなんとも素晴らしい。

予備知識がなく鑑賞したので、美食家と料理人という関係性がよくわからなかったのだけれど、美食家はレシピを考案し、料理人はそれを実際の料理に仕上げるという役割分担で、料理人というのは女性であるらしい。

なので、料理はウージェニーが仕事としてするのだが、そのウージェニーが体調を崩したときに、彼女を思い、彼女のためにドダンが一人でディナーを作る。このディナーが、その過程も含めて、「愛」なのだ。料理はこのように雄弁に愛情を語ることができるのだ(デザートは直截すぎるけど!)、と、ドダンのウージェニーへの一途な思いとともに、感じ入った。

本作にはエンドロールまで音楽がない。
聞こえるのは、料理をする音。そして、鳥の声だけだ。

料理の場面だけでなく、ろうそくの光に満ちたシャトーや、またルノワールやモネの絵画から抜け出したような屋外の様子などの映像は、自然の音を伴ってとても美しい。

良い時間が持てた、と思える作品だ。

ちなみに、ポトフは結局完成しなかったかも???

2024.1.13鑑賞 by K.T