映画鑑賞記「パブリック 図書館の奇跡」

公開日 2020年07月27日

パブリック 図書館の奇跡

原題:The Public
製作国:アメリカ(2018年)
上映時間:119分
監督:エミリオ・エステヴェス

アメリカシンシナティの公共図書館には、毎日様々な人がくる。ホームレスも常連だ。大寒波が訪れたある日、シェルターに入ることができない常連のホームレスが閉館後も帰らず、「ここを(一晩の避難場所として)占拠する」と、図書館員スチュアートに宣言する。図書館前で凍死したホームレスを見たばかりのスチュアートは、彼らを理解し行動を共にすることを決意するのだが、警察や次期市長を狙う検事らが介入してきて・・・


本作は、私たちが見えないふりをして、見ないようにしているホームレスの人々についての問題提起である。社会的に深刻な問題を取り扱っているが、クスクス笑えるところが散りばめられ、メッセージが受け取りやすい。と同時に、身近な図書館についてあらためて教えてくれる作品でもある

図書館をただ「本を貸してくれるところ」として扱っている人は多いのではないだろうか。私自身も、最近ではもっぱら「ネットで予約した本を借りるところ」として使用している。いや、もちろん本を借りたり読んだりすることができるところではあるのだけれど、本作を見ると、図書館がほかの公共施設とどう違うのか、図書館の持つ大きな役割がわかってくる。

アメリカには、アメリカ図書館協会が採択した「図書館の権利宣言」というものがある。ざっくり言うと、こういうことだ。

「知る自由」を保障するため、収集し提供する資料はいかなる理由でも締め出されるものがあってはならないこと、検閲を拒否すること、思想の抑圧に抵抗するすべての人々と協力すべきであるということそして、利用者はいかなる理由でも拒否してはいけないこと。

図書館は、人種・宗教・信条その他いかなる理由によっても利用者を拒否しない。誰もが図書館の中では平等なのだ。大人も子どももホームレスも。

そんな図書館の姿勢を見せてくれる主人公が、内には持っているものがあるのに、なんだか頼りなくて、熱く語るでもなく、主張するでもなくいるところが、また図書館らしくてイイ感じなのだ。作品中で明かされる、本に救われたという彼の経歴も、それを受け入れた図書館長にも胸が熱くなる。

ラストのほうで主人公がスタインベックの「怒りの葡萄」を引用する大切な場面がある。先に紹介したアメリカ図書館協会の「図書館の権利宣言」は、この「怒りの葡萄」がアメリカの多くの図書館で禁書扱いになったことを一つのきっかけとして生まれた。富める者と貧しい者との差、弱者への抑圧は、現在のアメリカでも世界でも変わらない。

それにしても、作品冒頭に出てくるようなレファレンス業務をこなし、閉館後にはオピオイドの過剰摂取者の救命法の講義を受け、ソーシャルワーカーのような役目までする図書館員さんとは!
本作鑑賞後には、きっと皆さんも、図書館で図書館員さんたちを見る目が変わってくることでしょう。

作品とは全く関係ないのだけれど、図書館員さんのレファレンス能力をちょっと見られるこんなサイトがあります。

福井県立図書館 覚え違いタイトル集
 

ちなみに、日本にももちろん日本図書館協会による「図書館の自由に関する宣言」というものがありますよ!

2020.7.24鑑賞 by K.T