映画鑑賞記「ゴヤの名画と優しい泥棒」

公開日 2022年03月07日

ゴヤの名画と優しい泥棒

原題:THE DUKE
製作:2020年/イギリス 上映時間95分
監督:ロジャー・ミッシェル

ロンドンナショナルギャラリーが14万ポンドで購入したゴヤの名画「ウェリントン公爵」が展示室から盗まれた。国際的犯罪のプロの仕事と思われた事件の犯人は、60歳の、妻と息子と暮らす年金暮らしのケンプトン・バントン。年金生活の老人のテレビ受信料を無料にしろ!など、正義感あふれる彼の目的とは・・・

チャーミングなキャラクターたちによるチャーミングな作品だ。

しかしなによりまず、びっくりするようなエピソードの数々が実話だということに驚く。「実話をベースにした」という作品は多々あるが、これは実話も実話。ケンプトン・バントンの孫が脚本を書いて(映画の脚本は脚本家が書き直しているが)製作者に送ったのが、企画の始まりだそうだ。ケンプトン・バントンの残した戯曲や回顧録も利用されているという。

意固地にも見える、ケンプトン・バントンの政治(?)運動や、バントン夫人の態度の理由に、ああ、そうなのか、と胸を掴まれ、1961年当時から現在にいたる社会格差や社会福祉の問題なども頭をめぐるけれど、でもやっぱり本作は、そのチャーミングさ、イギリスならではの会話やジョークを存分に楽しみたい。笑いあふれる裁判場面のあと、「え!」という驚きも用意されている。それがまたチャーミングなのだ。

それと、エリザベス女王役がピッタリだったヘレン・ミレンの変身ぶりもお楽しみに!

なお、本作はロジャー・ミッシェル監督の長編映画の遺作となったそうだ。

2022.2.26鑑賞 by K.T