映画鑑賞記「ベルファスト」

公開日 2022年04月19日

ベルファスト

原題:Belfast
製作:2021年/イギリス 98分
監督:ケネス・ブラナー

北アイルランド・ベルファスト。9歳のバディは両親と祖父母、近所の人々に愛され幸せに暮らしていた。ところが1969年8月、プロテスタントの暴徒がカトリックの家を襲うという事件が起こる。状況はきなくささを増していき、バディの一家は生まれ育った故郷を去るかどうかという決断を迫られる・・・

本作は、監督のケネス・ブラナーの自伝的作品と言われている。ストーリーは北アイルランド紛争の始まりを背景にして、9才の少年バディを中心に進む。

現在のベルファストと、テレビや映画の画面以外はモノクロで撮られている映像には、カラー以上の瑞々しさがあらわれるから不思議だ。バディの髪、瞳の色、どれもが輝いて見え、グラニー(おばあちゃん)のしわも美しい。

バディを演じるのは、本作がデビューというジュード・ヒル。とにかく、このバディがかわいい!ゴミバケツの蓋を盾にしてドラゴンと戦い、テレビや映画館で映画を観るのが大好きで、好きな女の子の隣に座るにはどうしたらいいか?と悩み・・・そしてまた、(バディの両親も魅力的だけど)バディに向けたおじいちゃんおばあちゃんのユーモアにも溢れた言葉が、どれもこれも胸に刺さる。

そう、だからこそいっそう、そのような幸せで素敵な家庭の中に、誰もが顔見知りだという街の中に、突然押し入ってくる暴力が、恐ろしいのだ。

子どもたちは通りで遊び、好きな女の子のことで一喜一憂し、いたずらをして怒られ、「ごはんだよ」の声で家に帰る。

そんな普通の日常が、子どもたちの笑顔が、大人のイデオロギーや宗教で強引に壊されていく・・・当たり前のことが幸せで、その、当たり前がいとも簡単に壊されてしまうという恐ろしさ。

それに胸が痛むとともに、顔を上げれば、それはこの1969年のベルファストのことだけではなく、場所を変えてまさに今この時に起こっていることなのだとあらためて思い知らされる。子どもの笑顔と日常が今この時ももっと残酷な形で奪い続けられているということを。

本作は、米アカデミー賞で脚本賞を受賞しているが、私の中ではこれが作品賞。「コーダ あいのうた」も良い作品だけれど、オリジナルの「エール!」と比較するとメッセージの強調がちょっと息苦しくて。

 

2022年4月8日鑑賞 by K.T

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