映画鑑賞記「エンパイア・オブ・ライト」

公開日 2023年03月15日

エンパイア・オブ・ライト


監督:サム・メンデス
製作:2022年/115分/イギリス・アメリカ合作
原題:Empire of Light


ヒラリーが働く映画館・エンパイア劇場で、アフリカ系のスティーブンという青年が働くことになった。傷ついた鳩を通して心を通わせるようになった二人はやがて惹かれ合っていくのだが・・・


映画愛に溢れた作品だ。
映画館が舞台というだけではなく、映像、音楽、演技・・・映画を愛している人々が丁寧に作った作品だとしみじみ感じた。

寒々しい海辺に立つ年代物の映画館。そこに一つずつ灯りをともし、目覚めさせていくその冒頭の映像が、まずなんともいえず美しく、そういったものが今失われつつあるということが思い起こされて切なくもなる。

その映画館を舞台にした本作だが、これは、誤解を恐れずに言えば、この社会でのマイノリティのための物語だ。

心の病を抱え、ただ今を過ごしているだけだったヒラリー。1980年代、サッチャー政権下で、差別と排斥の対象となるアフリカ系のスティーブン。そのバックグラウンドでだけではなく、彼女らには親子ほどの年齢差がある。それらを飛び越えて結ばれる二人の関係は、あまりに弱く儚いからこそ暖かく愛おしい

幸せな情景の奥底に哀しみが隠れる。それはまるで光の中に影を潜めている映画フィルムのようだ。

辛い状況をそれぞれに一つ乗り越え、進んでいくラストシーンは、私たちの胸にも小さな灯りをともしてくれる。静かに味わいたい良作だ。

映画・映画館をテーマにした作品には、最近「エンドロールのつづき」というインド映画もあります。またアメリカ映画「フェイブルマンズ」もその類かも。どちらも自伝的作品です。でも映画館の映画といえば、やはり「ニュー・シネマパラダイス」そして「カイロの紫のバラ」が秀逸!本作も、もちろん映画好きさんには特にオススメです!


2023.3.3鑑賞 by K.T