映画鑑賞記「夜明けのすべて」

公開日 2024年02月26日

夜明けのすべて


製作:2024年/日本/119分
監督:三宅唱
原作:瀬尾まいこ

藤沢さんは、いつもは気を遣いすぎるぐらいに人に気を遣う人なのに、月に一度、PMS(PMDD?)で感情の制御が効かなくなる。前の職場にはそのせいでいられなくなったのだが、今の職場、栗田科学では周りの理解もあるようだ。あるとき、新人後輩の山添くんへのイライラが抑えられなくなり爆発してしまう。だが、実はその山添くんも、パニック障害で転職してきたという事情だった。山添くんにとっては現状は受け入れがたく、殻に閉じこもっているような状態だったのだが、徐々に二人間に理解と、相手の力になりたいという気持ちが生まれてくる。


優しい映画だ。

大きな事件や特別なことが起こるわけではない。藤沢さんと山添くんの抱えている問題がなくなっていくわけでもない。でも、毎日はこうやって前に進んでいくものなのだと、あたたかい気持ちになれる。

大切なエピソードや大切なフレーズはたくさんあって、でもそれは、受け取りたい人、受け取るべき人だけが気づけばいいんだよ、というふうに、押し付けられることのないように散りばめられていると感じた。

だからきっと、必要な人にはことさら大きく響く作品だと思う。


弱さがあるから、傷ついたことがあるから人に優しくなれる、といいきってしまうのはきっと正しくないと思うけれど(何もなくても優しい人もいるはずだし!)、夜明け前を知っている人はその暗さも知っているし、その中は手を取り合って歩くほうがいいということもわかる。山添くんも藤沢さんも、お互いの助けになりたいという気持ちが自分の助けにもなっていったはず(二人が恋愛関係に全くならないのもイイ!)。

少しずつ手を差しのべながら皆が生きたら、世界はずっと生きやすくて明るいものになるのだろうなあ、と、そんなことを思った。

瀬尾まいこの原作では藤沢さんたちが働くのは金属会社で、プラネタリウムの話は出てこないそうなのだが、プラネタリウムというのがは本作ではとても重要だ。

何あろうと地球は止まらずに規則正しく自転し、星は巡り、太陽が昇る。北の目印の北極星は今はこぐま座(のポラリス)だけど、13000年後にはこと座のベガ(が北極星)になるのだそうだ。宇宙の大きさ(時間)を考えれば、人間の毎日は本当にちっぽけなこと。そう思うと、つらいことがなくなるわけではないが、思い通りにならないことにいっぱいいっぱいの時にも、少しは呼吸できるような気持ちになれるのではないだろうか。

さてさて、この大切なプラネタリウム。プラネタリウムの機械は五藤光学研究所の協力だそうですが、映画中に国立天文台のドームシアター「4D2U」の名前が見られ、国立天文台開発のビューワー「Mitaka」の名前もクレジットされていました!国立天文台三鷹キャンパスでは、ドームシアター「4D2U」で「Mitaka」の定例公開が毎月あります。予約制ですが、おすすめです!宇宙の広さを是非実感してください!

2024.2.26鑑賞 by K.T